花火の煌めきに負けるくらい弱い光だけれど夜光虫は確かにそこで輝いている - ノクチルシナリオイベント「天塵」

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このエントリは アイドルマスター シャイニーカラーズ - ノクチル - シナリオイベント「天塵」のネタバレを含んでいます。

予告動画から 浅倉がギャグみたいなことをやって「あーさーくーらー」と怒られる、まあシリアスなお話なのだろうなという予想は付いていた。

時系列はノクチル4人が加入して少し経過してからで、W.I.N.G. はまだ、というあたりだろうと自分は解釈している。

アンティーカ シナリオイベント「ストーリー・ストーリー」

「天塵」の話に入る前に、少し前に開催されたアンティーカのシナリオイベント「ストーリー・ストーリー」についてちょっとだけ話しておかなければならないので、まだ読んでいない人は目を背けて欲しい(無茶)。

「ストーリー・ストーリー」は、テラスハウスという建物を舞台装置に、アンティーカを擁する 283 プロダクションと TV 局が対立する構図で物語が描かれた。お話の中では、テレビ局サイドが悪者として描かれていたけれども、テレビ局にも、テレビ局なりの理がある。283 プロへの譲歩も提案したけれど P はそれを拒否した、という流れも見たので、ストーリー上、分かりやすい悪役としてテレビ局サイドが表現されていた、と個人的には受け止めている。

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芸能事務所である 283 プロはもちろんそうだが、テレビ局の彼らだってボランティアで番組を作っているのではない。ビジネスなのだ。シャニマスは、たしかにフィクションだけれど、こういうところで綺麗事やご都合で納めず、とても現実的な事情を突きつけてくる。

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(番組ディレクターに対して黒い感情を抱くが、彼も彼なりにオンエアするに足る理由がなければ他のスタッフに説明することができないのだ)

ノクチル シナリオイベント「天塵」

「天塵」の話に進もう。

今回の天塵は、ユニットとして活動を始めたノクチルが初仕事として生放送番組の枠をもらう…。というお話なのだけれど、ここで再びテレビ局 VS 283 プロの構図である。

前回と違うのは、どうやらこの時間軸では既にアンティーカはそれなりに有名なアイドルユニットとして知名度を上げている様子、という点だ。天塵は、ノクチルというユニットを描くお話なのに、テレビ局のスタッフたちの口から「アンティーカさんならねえ…」と同じ事務所のユニットの名前が、比較されるように出てくる。姿を見せることなく。

それを含めた諸々の「手厚い歓迎」を受けたノクチルの4人は、この生放送である事件を起こして、見事、業界では干されてしまう。

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円香が言うようにそもそもスタートラインにすら立っていなかったのだけれど。

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SNS でも当然のようなそしりを受けるのだけれど、この画像を含めた様々な反応を見たであろう雛菜からの言葉がこれである。

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これを見た瞬間、リアルにウ゛ッワ゛と声を出しながらオート再生を止めてしまった。W.I.N.G. シナリオでの言葉といい、雛菜が唐突に発する返す言葉に困るような言葉は本当にびっくりするので画面越しに見ているはずのこっちの寿命が縮まる。雛菜が時折見せる強さ、と呼ぶべきものなのか、一歩引いたような目線から言葉を投げかけてくるこの性格は、彼女を単独でプロデュースしているときに見えてはいた。

だから、今回のような周囲の反応は毛ほどにも感じていないのかもしれない。多分だけれど。

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普段はこんな子である

一方のプロデューサー。次の仕事を見つけてこようと東奔西走するのだけれど、残念ながら干されてしまった彼女たちは、やはりというか当然というか、どこも受け入れてくれない。信頼というのは積み上げるのは長い年月がかかるくせに崩れるのは一瞬だけれど、新人アイドルである彼女たちには積み上がっている信頼がもとよりなかったのだ。プロデュースをする私達プロデューサーの目に、彼女たちがどれだけ眩しい存在に見えていたとしても、彼女たちを知らない人達にとって彼女らは数多の新人アイドルの中の「誰?」でしかない。

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結末としては、この物語で起きた問題は一切解決しないままお話は終わる。

あの時、裏で起きていた事実を書こうとしてくれる記者はいない。名案を思いつく女の子もいない。彼女たちは初めての仕事でひどい事件を起こして、干されて、プロデューサーが必死で手に入れてきた、花火会場の小さな場所で誰にも見向きされないままステージに立つ。聴衆は彼女たちに目もくれず、次々と打ち上がる花火に歓声を上げている。演技に拍手を送るのはプロデューサー1人だけ。いっそのこと観客がいない方がまだマシだったのかもしれない。アイドルと呼ばれる存在にとって、これほど悲しい現場は無いだろう。けれど、彼女たちにとってはそれでよかった。すくなくとも今の彼女たちに大勢による承認は必要条件ではなかった。アイドルとしてプロフェッショナルでいることよりも、みんなでいることができる、それがノクチルとしてありつづけることだったのだ。

おそらくそれはアイドルとして模範解答ではないのだろう。だけれど、今回、彼女たちが導き出した答えはそれだった。

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だから、ようやく、彼女たちはここから始めることができる。

それでも、そんな自分たちを誰も見ていなかったというのはやっぱり勿体なく感じる。

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こんなに私たちは楽しかったのに!

海に飛び込んで花火の音にかき消されるのをいいことに「花火じゃなくてこっちを見ろ-」「バカヤロー」と叫ぶ。「見せ方」を知っている誰かになる必要なんてない。私たちはありのままで楽しい。この私たちを見ろ。

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ユニット名「ノクチル」の元となった言葉についてきょう初めて調べてみた。

ja.wikipedia.org

ヤコウチュウ(夜光虫、Noctiluca scintillans)は、海洋性のプランクトン。大発生すると夜に光り輝いて見える事からこの名(ラテン語で noctis '夜'+lucens '光る')が付いたが、昼には赤潮として姿を見せる。赤潮原因生物としては属名カナ書きでノクチルカと表記されることが多い。

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花火の煌めきに負けるような弱い光だけれど夜光虫は確かにそこで輝いている。いつしかその光は花火すらかき消すような強い光になるのかもしれないし、あるいはならないのかもしれない。みんながまだ幼いころに約束した「車を買って海へいこう」という約束をしてから数十年も経った。ノクチルという車を手に入れて、ようやく海へと辿り着いた彼女たち。ともすれば簡単に瓦解してしまいそうな危うさだけれど、走り出した波を追いかける碧い風がどこへ向かっていくのか、楽しみでならない。